Short Stories
咲かない春
冷たい冷たいと凍えながら、それでも融かしてしまうことを望まない。
それは優しさなのかもしれなかったし、こどもの部分なのかもしれなかった。
同じ氷を抱えた女子高生ふたりの、いつかの冬の夜のおはなし。
協和音
どこかの国でピアニストをしている彼と、彼のもとを訪れる彼女が、
居心地の良い協和音を奏でるひとときのおはなし。
翼の輪廻
ああ、そうか。あれは翼なんだ。
いつかするりと海を抜け、空へと飛び立つ翼なんだ。
黎明の時間に囁き合うふたりのひとときのおはなし。
肩甲骨は翼の名残であるという命題について。
誰そ彼
この空気よりも柔らかい時間に、「誰そ彼」という美しい名を付けた先人もまた、
この時間を愛していたのだろうか。
青灰色の時間を愛するふたりの、刹那のひとときのおはなし。
アクアリウム・ナイト
優しさには、きっと、依存性がある。
このまま摂りつづけたら、いつか致死量に届くだろう。
雨の夜、青年と年上の男が、相合傘で家路を歩く、
気怠く昏い、刹那のおはなし。
ネオン
星という名前をつけられた宇宙の屑たちが、砕いていくのだ。
権力も、傲慢も、なにもかも。
社会に疲れた青年と、少し年上の青年の、
ネオン街での邂逅のおはなし。
ゲート
僕たちは既に、治療の見込みがないほど、
この国の空気に蝕まれてしまっているのかもしれない。
働く以外の人生を許されなかった青年のおはなし。
ぼくらの海は、ゼロを超えない。
今ここに世界は、死体のように横たわっている。
海は今や、巨大な柩だ。
過去の戦争によって荒廃し、汚染が進んだ海に生きる、
ふたりの少年の、短いおはなし。